2024年4月、相続登記が義務化されました。これは、所有者不明の土地や建物を減らし、適切な管理を促すための法改正などによるものです。特に、相続で取得した空き家を放置すると、様々なリスクやデメリットが発生する可能性があり、注意が必要です。
本記事では、相続登記が義務化された社会的背景や、空き家の具体的なリスクやデメリットについて解説します。あわせて、改正空家法で定められた「管理不全空家」や「特定空家」などについても触れていきますので、ぜひ最後までお読みいただき、円満な相続と適切な資産管理にお役立てください。
参考:「2024年4月に義務化された【相続登記】とは?手続きしないと罰則やご家族に迷惑がかかります!」
1.相続登記が義務化された社会的背景:空き家の放置が社会問題化
近年、人口減少や高齢化に伴い、全国で空き家が増加の一途をたどっています。総務省の調査によると、2018年時点で空き家の数は849万戸に達し、住宅総数の13.6%を占めている状況です。
これらの空き家の多くは、相続によって取得されたものの、適切に管理されずに放置されているケースが目立ちます。放置された空き家は「景観の悪化、衛生問題、防犯上のリスク」など、周辺環境に悪影響を及ぼすだけでなく、倒壊の危険性も高まり、地域住民の安全を脅かす可能性もはらんでいます。
こうした状況を受け、国は所有者不明の土地や建物を減らし、適切な管理を促すため、2024年4月に相続登記を義務化する法改正を行いました。
2.空き家とは?
相続などで、住宅の所有者が変わっても、すぐにそこに住み始めることができるとは限りません。リフォームや転居のタイミング、あるいは賃貸に出す場合など、様々な事情で住宅が一定期間、空いたままになるケースがあります。
では、法律上、「空き家」とはどのような状態を指すのでしょうか?
実は、「空き家」の明確な定義は法律で定められていませんでした。一般的には、人が住まなくなって長期間放置されている住宅や、別荘などの二次的住宅で利用されていない状態のものを指します。
「長期間」の定義も曖昧で、明確な基準はありません。建物の外観が老朽化しているかどうかに関わらず、居住の実態がない状態であれば「空き家」とみなされる可能性があります。
例えば、以下のような状態の住宅は「空き家」と判断される可能性があります。
・相続したものの、誰も住んでいない家 ・転勤などで、長期間留守にしている家 ・売却が決まっているが、引き渡しまでの間、誰も住んでいない家 ・別荘として所有しているが、ほとんど利用していない家 |
このように、「空き家」の定義は状況によって判断が異なる場合があり、一概に断言することはできませんでした。
そこで後述する「改正空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)」が2023年12月13日に施行され、空き家かどうかは、1年間を通して人の出入りの有無や、水道・電気・ガスの使用状況などから総合的に判断されることになりました。
3.空き家を放置するデメリット
相続した空き家を放置することで、以下のような様々なデメリットが発生する可能性があります。
参考:政府広報オンライン「空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化」
1)地域環境が悪化し近隣住民への迷惑&危険が増加する
放置された空家は、地域環境に下記のような悪影響をおよぼします。
①景観悪化
雑草が生い茂ったり、外壁が剥がれ落ちたりすることで、景観を損ね、周辺の資産価値などに悪影響を与える可能性があります。
②外壁などの落下
老朽化した外壁や屋根瓦などが落下し、通行人に怪我をさせてしまう危険性があります。
③悪臭
ゴミや生活排水が放置されることで、悪臭が発生し、近隣住民の生活環境を悪化させる可能性があります。
④倒壊
建物が老朽化し、地震や台風などの災害時に倒壊してしまう危険性があります。
⑤ねずみや害虫
空き家は、ねずみ、ゴキブリ、シロアリなどの害虫の温床となり、周辺住宅に被害が及ぶ可能性があります。
⑥樹木など越境による境界トラブル
庭木が伸び放題になり、隣地へ越境することで、境界トラブルに発展する可能性があります。
⑦不法侵入、放火、不法投棄
空き家は、不法侵入者や放火犯の標的になりやすく、犯罪の温床となる可能性があります。また、不法投棄の場所として利用されるケースも少なくありません。
2)罰則や強制撤去のリスクがある
「空家法」は、適切な管理が行われていない空き家に対して、市区町村が所有者に対し、助言・指導、勧告、命令を行うことができる法律です。
命令に従わず、改善が見られない場合は、罰金が科せられる場合があります。さらに、周辺環境に悪影響を及ぼす「特定空家」に指定された場合は、行政代執行による強制撤去が行われる可能性もあり、その費用は所有者が負担することになります。
3)税金が高くなる
住宅用地として利用されている土地は、固定資産税などが軽減される特例措置が受けられます。しかし、空き家として放置されている場合は、この特例措置が適用されなくなり、固定資産税などの負担が増加してしまいます。
4)相続トラブル
相続財産である空き家を放置することで、正しい相続が完了せず、売買や賃貸もできないままになります。さらに、相続税の追徴課税や、上記のようなデメリットも発生し、親族間のトラブルに繋がることも珍しくありません。
特に、相続人が複数いる場合、意見が対立しやすく、長引くほど解決が困難になる傾向があります。
4.空家法の改正で「管理不全空家」に対する措置が新設
2023年12月施行の空家法改正により、空家に対するさまざまな措置を行えるようになりました。
改正前の空家法は、対象となる空き家が「特定空家」の状態になる前の段階では、市区町村は指導や勧告といった措置をとることができませんでした。
しかし、特定空家になってからの対応だけでは、増え続ける空き家への対応にも限界があり、前段階としての「管理不全空家」に対する措置が行えるようになりました。
5.空き家の悩みは専門家への相談がおすすめ
空き家の管理や相続登記に関する手続きは複雑で、専門的な知識が必要となる場合があります。自分だけで解決しようとすると、時間と労力を費やし、かえって問題を悪化させてしまう可能性も懸念され、注意が必要です。そのような場合は、早めに専門家へ相談することを検討しましょう。相続登記なら司法書士、土地の境界や測量も含めた困りごとは土地家屋調査士に相談できます。
司法書士は、相続登記の専門家です。必要書類の収集や手続きを代行してくれるだけでなく、相続に関する様々な相談に乗ってくれます。土地家屋調査士は、土地の境界に関する専門家です。境界確定測量や筆界特定などの手続きを代行してくれるほか、隣地との境界トラブルの解決にも尽力してくれます。
専門家を選ぶ際には、相続関連の経験が豊富な司法書士や土地家屋調査士を選ぶようにしましょう。経験豊富な専門家であれば、より的確なアドバイスやサポートを受けることができます。相続登記の義務化は、空き家の適切な管理を促し、地域社会の安全・安心を守るための重要な制度です。空き家を相続した際は、放置することなく、適切な管理を行いましょう。