【田舎の空き家や山林】相続したくない場合の対処方法や注意点を専門家が解説

近年、都市部への人口集中や少子高齢化の影響により、地方には空き家や山林が増加しています。親族が地方に所有していた不動産を相続することになったものの、管理や維持の負担が大きいため、相続したくないと考える方も多いのではないでしょうか。しかし、相続は複雑な手続きを伴い、安易な判断は後々、思わぬトラブルに発展する可能性も秘めています。

そこで本コラムでは、相続したくない空き家や山林にどう対処すれば良いのか、具体的な方法と注意点を詳しく解説します。相続放棄、相続財産清算人、相続土地国庫帰属制度など、近年注目されている制度も取り上げ、それぞれのメリット・デメリットを分かりやすく説明します。

さらに売却や活用といった選択肢についても触れ、状況に応じた最適な方法を検討できるよう、専門家の視点から多角的に情報を提供しますので、参考にしていただければ幸いです。

参考:遠方にある不動産を相続登記する場合の注意点について解説します!

1.相続放棄する

相続放棄とは、故人(被相続人)の財産を一切相続しないという手続きです。空き家や山林だけでなく、預貯金や借金など、プラスの財産もマイナスの財産も全て放棄することになります。相続放棄を行うことで、空き家や山林の保存責任や固定資産税などの負担から解放されるというメリットがあります。

■相続放棄の注意点

①3ヶ月以内に手続きを行う
相続放棄は、家庭裁判所への申述によって行います。相続開始を知ってから3ヶ月以内という期限が設けられているため、迅速な対応が必要です。

②必要な書類を準備する
相続放棄の手続きには、戸籍謄本や住民票など、様々な書類が必要となります。事前に必要な書類を確認し、準備しておきましょう。

③プラスの財産も放棄することになる
相続放棄をした場合、故人の財産を一切受け取ることができません。プラスの財産が多い場合でも放棄することになるため、慎重に判断する必要があります。

④他の相続人に影響を与える可能性がある
相続人が複数いる場合、自分が相続放棄をしたことで、他の相続人の相続分が増加し、税負担が大きくなる可能性があります。他の相続人とよく話し合い、理解を得た上で手続きを進めることが重要です。

⑤一度放棄すると取り消せない
相続放棄は、一度行うと原則として取り消すことができません。そのため、十分に検討した上で手続きを行うようにしましょう。


2.相続財産清算人を選任する(2023年4月民法改正による)

相続放棄した場合にも、「相続財産に属する財産を現に占有しているとき」や、他に相続人がいないケースでは、空き家や山林の保存義務が残ってしまいます。そのような状況を解決するため相続財産清算人を選任し、管理を任せることが可能です。相続財産清算人は、2023年4月民法改正により相続財産管理人から名称が変更されたものです。

相続財産清算人は、家庭裁判所に選任された専門家で、相続財産の管理や処分、債権者・受遺者への対応など、相続手続き全般を代行してくれます。

1)相続財産清算人のメリット

①専門家によるサポート
相続手続きに不慣れな場合でも、専門家が手続きを代行してくれるため、安心です。

②相続人同士の争い防止
相続財産清算人が選任されることで、相続人間でのトラブルを避けることができます。

③複雑な手続きの処理
相続財産に負債が多く、処理が複雑な場合でも、専門家の知識と経験を活かして適切な対応を取ることができます。

2)相続財産清算人の注意点

①家庭裁判所への申立てが必要
相続財産清算人を選任するには、家庭裁判所への申立てが必要です。また、相続財産の内容からして、相続財産清算人が相続財産を管理するために必要な費用に不足が出る可能性がある場合、裁判所が申立人に対して事前に予納金の納付を求めることがあります。予納金の金額は100万円前後になることが一般的です。

②報酬が発生する
相続財産清算人には報酬が発生し、金額は相続財産の額や業務内容によって異なります。相続財産清算人への報酬は、亡くなった人の相続財産から支払われるのが原則ですが、相続財産から支払えない場合は、申立人の予納金から支払われます。


3.相続土地国庫帰属制度の申請(2023年4月からスタート)

2023年4月からスタートした「相続土地国庫帰属制度」は、一定の条件を満たす土地を国に帰属させることができる制度です。この制度を利用すれば、相続したくない土地の所有権を国に移転させることができ、管理責任や固定資産税の負担から解放されます。

1)相続土地国庫帰属制度の利用条件

①相続した土地であること
土地の所有者が死亡し、相続人がその土地を相続していることが条件です。

②通常の管理・処分をするのに過分の費用・労力を要しない土地
下記のケースは申請不可となります。

・建物や通常の管理または処分を阻害する工作物等がある土地
・土壌汚染や埋設物がある土地
・危険な崖がある土地
・権利関係に争いがある土地
・担保権等が設定されている土地
・通路など他人によって使用される土地など

2)相続土地国庫帰属制度の注意点

①全ての土地が対象ではない
一定の条件を満たす必要があるため、事前に確認が必要です。

②書類の準備が必要
申請には、土地の登記簿謄本や固定資産税の納税通知書などの書類が必要となります。

③審査に時間がかかる
審査には時間がかかる場合があり、帰属が認められないケースもあります。

④費用が発生する
申請手数料や測量費用など、一定の費用が発生します。また、申請が承認された場合には、「10年分の土地管理費相当額の負担金」も必要になります。

参考:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」


4.空き家や山林の売却

空き家や山林を売却するという方法もあります。売却によって現金化することで、他の相続財産の分割や、相続税の支払いに充てることができます。

■空き家や山林の売却の注意点

①買い手が見つかりにくい場合が多い
空き家や山林は、買い手が見つかりにくい場合があります。特に、築年数が古かったり、アクセスが悪かったりする場合は、売却が難しい可能性があります。

②諸費用が発生する
売却には、不動産会社への仲介手数料や、測量費用などの諸費用が発生します。売却額が少額なケースでは、費用の方が大きくなる場合もあります。


5.空き家や山林の活用

空き家や山林を、賃貸住宅や別荘、太陽光発電所などに活用する方法もあります。活用することで、収益を得ることができ、空き家の維持管理費用に充てることができます。

■空き家や山林の活用の注意点

①初期費用がかかる
活用には、リフォーム費用や設備投資費用など、初期費用がかかります。

②収益化に時間と手間がかかる
収益化するには、時間と手間がかかる場合があります。

③地域によっては制限がある
地域によっては、活用に制限がある場合があります。

④管理の手間が発生する
活用する場合には、定期的なメンテナンスや管理が必要となります。


6.国や自治体の制度の活用

空き家や山林の対策として、国や自治体が様々な制度を設けています。例えば、空き家の解体費用やリフォーム費用を補助する制度や、空き家の管理を代行するサービスなどがあり、これらの制度を活用することで経済的な負担を軽減できる可能性があります。

■国や自治体の制度を活用する注意点

①制度の内容は地域によって異なる
制度の内容は、地域によって異なります。事前に、自分が住んでいる地域や対象となる不動産所在地の自治体の制度を確認する必要があります。

②利用条件がある
制度の利用には、一定の条件を満たす必要があります。例えば、建物の築年数や状態、利用目的などが条件となる場合があります。

③予算に限りがある
補助金制度などは、予算に限りがあるため、申請が殺到する可能性があります。


7.専門家へ相談する

空き家や山林の相続に関する問題は、法律や税金など専門的な知識が必要となるケースが多くあるため、弁護士や税理士、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家は、状況に応じて適切なアドバイスやサポートを提供してくれます。

■専門家への相談のメリット

①専門的なアドバイス
専門的な知識に基づいたアドバイスを受けることができます。

②手続きのサポート
相続放棄や相続財産清算人の選任、相続土地国庫帰属制度の申請など、複雑な手続きをスムーズに進めることができます。

③トラブルの予防
専門家に相談することで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

相続したくない空き家や山林の対処方法は、状況によって異なります。本コラムで紹介した内容を参考に、ご自身の状況に合った方法を検討し、専門家へ相談しながら、適切な対応を進めていきましょう。

参考:築50年の古民家を相続…登記はどうする?必要書類と注意点【相続税対策も】


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大阪府枚方市くずは行政書士おおむら法務事務所

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