中小企業もパワハラなどのハラスメント防止対策が義務化されました!

令和2年6月1日からパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)などが施行され、職場でのハラスメント対策が事業主の義務とされました。中小企業においても、令和4年4月1日から義務化されています。

これは「職場ハラスメント相談」の増加に対応するかたちで、制定されたものです。都道府県労働局への職場「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、令和3年度には86,034件で10年連続最多件数となっています。

しかし、これらの法改正や義務化は近年実施されたばかりで、中小企業などが単独で適正に実施することは非常に困難な状況です。このような状況下でも、会社に降りかかる様々なリスクを防ぐためには、弁護士や社労士など専門家を活用するなどして、体制を整えていくことは急務といえるでしょう。

そこでこの記事では、「ハラスメントとは何か、ハラスメント対応における企業の義務、ハラスメント対応を専門家に依頼するメリット」などについて解説します。


参考:厚生労働省「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

参考:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」


1.ハラスメントとは?

ハラスメントとは、「人に対する嫌がらせや、いじめなどの迷惑行為」のことです。行為者が故意かどうかは関係なく、被害者が不利益を受け苦痛を感じるような言動はハラスメントになります。

この章では、職場で起こり得るハラスメント、ハラスメントに対して企業が抱えるリスクについて解説します。

1)職場でのハラスメントとは

職場で発生しているハラスメントとして、次のようなものが挙げられます。

パワーハラスメント職場での優位な立場を利用した嫌がらせやいじめ
セクシャルハラスメント職場内での性的な言動
マタニティハラスメント妊娠・出産などをきっかけとした不利益な扱い
パタニティハラスメント男性の育児時短申請などをきっかけとした不利益な扱い
モラルハラスメント人格や尊厳を傷つけて精神的苦痛を与える
アルコールハラスメント飲酒を強要する行為
時短ハラスメント同じ仕事量のまま労働時間短縮を強要する
ロジカルハラスメント論理的に相手を言い負かし相手を不愉快にする
エイジハラスメント年齢に紐づけて個人を誹謗中傷する
ジェンダーハラスメント性別を理由にした差別や嫌がらせ
スモークハラスメント喫煙者によって非喫煙者が不快な言動を受けること
ハラスメントハラスメント適切な指摘をハラスメントと騒ぎ立てる行為

様々なハラスメントがありますが、パワハラ・セクハラ・マタハラは3大ハラスメントと呼ばれ、都道府県労働局などへの相談件数が圧倒的に多くなっています。

この3大ハラスメントは、それぞれパワハラ防止法(労働施策総合推進法)、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法で、防止措置が義務付けられています。

2)ハラスメントに対して企業が抱えるリスク

前述のように、企業でおこりえる様々なハラスメントが問題視されています。

そして、これらのハラスメントを防止することは企業の義務とされており、放置などをすれば、様々なかたちでマイナスの影響を受けることになります。

企業秩序が乱れ従業員のモチベーションも低下し、企業の競争力にも深刻なダメージをおよぼします。また、安全配慮義務違反があるとして、ハラスメント被害者から損害賠償をされることもあります。

「ハラスメントなどの問題がある企業」として認識され、法的なリスクだけではなく、社会的信用も低下します。そうなると会社としては、新たな人材を採用するのが難しくなります。さらに、顧客や取引先が離れてしまう原因にもなり、業績悪化の恐れもあります


2.ハラスメント防止対策で企業に義務付けられる措置

前述のパワハラ防止法(労働施策総合推進法)、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法は、ハラスメント対応における企業の義務について、以下のように定めています。


1)ハラスメントに対する企業方針等の明確化と周知・啓発

①職場におけるハラスメントの内容を明確化し、ハラスメントを行ってはならないことを企業の明確な方針として示し、管理職や労働者に周知します。

②ハラスメントの行為者についての罰則や対応などを、就業規則などの文章に規定します。

ハラスメントを行うと懲戒処分などの罰則などを受けることが明確化されることにより、防止策として非常に大きな効果が期待できます。


2)相談窓口設置などハラスメント対応する体制の整備

③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知します。

④相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにルールも定めておく必要があります。

人間関係などの問題で、社内に対応窓口を設置するのが難しい場合には、弁護士や社労士などの外部機関に委託するのも効果的です。


3)ハラスメント発生後の迅速で適切な対応ルールを策定

⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する。

⑥速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う。

⑦事実関係の確認後、ハラスメント行為者に対する措置を適正に行う。

⑧再発防止に向けた措置を講ずること。

ハラスメント発生時の対応方法やルールは、事前に決めておかなければなりません。そうしなければ、対応が後手に回ってしまい、二次被害発生や企業リスク拡大をまねいてしまいます。


4)その他の行うべき対応

⑨ハラスメントの相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要なルールなどを定め、労働者に周知します。

⑩相談したことなどを理由として、解雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発しなければなりません。

ハラスメント問題の難しい点は、相談することによって「解雇その他不利益な取り扱いをされるのではないか」という不安を抱いてしまう点にあります。そのため泣き寝入りや、問題が取り返しのつかないほど大きくになってから発覚することも珍しくありません。

このような深刻な事態を防ぐためにも、会社としての方針を明確に示し、問題が発生した際は迅速に対応ができるような体制をつくることが大切です。


3.ハラスメント防止対応を専門家に依頼するメリット

ハラスメント対応は非常にデリケートな事案もあり、企業内だけで対応するのは非常に難しい一面もあります。

弁護士や社労士など外部の専門家を活用することによって、ハラスメント行為者・被害者・企業の話し合いが、スムーズにすすむことは珍しくありません。

このように、ハラスメント防止対応を専門家に依頼するメリットは次のようになります。

①普段から相談できるので自然にハラスメントを防止する体制になっている。

また、何がハラスメントで、何が問題点なのかも明確化してもらえる。

②提携先企業への理解が深いため回答も早く的確である。

③提携している場合には、普段から付き合いがあるため迅速に対応ができる。

もし提携専門家がいない場合であれば、問題が発生した後に専門家を探し対応していく必要があるため、対応に非常に時間がかかる。

そのため問題が大きくなってしまうことが多い。

④企業内外や行政機関に対する信用が高くなり安心感が増す。

企業内でも問題があれば随時、専門家に相談でき対応が迅速にできる。

対外的に考えても、「顧問弁護士や社労士がいるのであれば大丈夫だろう」という信頼を得ることができます。専門家と提携しており適正に対応する姿勢が見えれば、行政機関もことを荒立てるケースは大幅に減ります。

⑤会社に義務付けられているハラスメント研修や相談窓口を委託することもできる。

⑥万が一問題が起こった場合にも適法に対応してもらえる。

⑦法務コストを削減できる。

弁護士などと顧問契約を締結している場合、各種手続きでは割引サービスなどを受けられることがあります。そのため、1年に1件でも訴訟対応などの事案があれば、年間の顧問料はペイできるケースが大半です。

契約書のチェックや法律相談など日常的に発生するコストも、スポット依頼よりはるかにお得になります。

また、法律に関する知識を有する方を雇う場合、高額な人件費が必要になります。その機能を専門家で補うということは、大きなコスト削減につながります。


4.「中小企業もハラスメント防止対策が義務化」まとめ

ハラスメント対応が企業に義務付けられている現状においては、就業規則などによるルール化や体制作りは急務といえます。

義務付けられたルール作りや体制作りを怠ると、行政機関から指導などのペナルティを受けることがあります。また、社内の労働者や顧客、取引先などからも「ハラスメントに対する意識の低い企業」との評価を受けてしまい、企業の存続にも大きなマイナスの影響をおよぼします。

しかし、中小企業や小さな会社が、自社だけでルールを作り、研修などを行い、体制作りをすることは非常に困難です。ハラスメント対応などに不安がある場合には、弁護士や社労士など専門家の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

参考:当事務所について

  • この記事を書いた人

特定行政書士×プロライター

ビジネス・法律系記事の執筆が得意な人。会社経営歴10年。
東証一部不動産・建設会社や中小企業、社労士事務所などで「法律系事務」や「人事総務」などを長年経験。

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