相続が発生した際、遺産をどのように分割するかは重要な課題です。特に遺産分割協議は、相続人同士の話し合いで合意を得る必要があり、場合によっては争いに発展することもあります。
この記事では、遺産分割協議の基本的な知識や事前に確認すべきポイント、手続きの流れ、そして注意点について行政書士が詳しく解説します。事前に正しい知識を身につけ、スムーズな相続手続きを進めるためにお役立てください。
参考:相続とは?遺言や法的相続人、相続方法など基本的な手続きについて行政書士が解説します
1.遺産分割協議の基礎知識
相続が発生した際、相続人全員で話し合い、遺産の分割方法を決定するのが遺産分割協議です。これは相続手続きの中でも重要なプロセスであり、適切な進め方を理解しておくことがトラブル防止のカギとなります。ここでは、遺産分割協議の基本的な知識とその重要性について解説します。
1)遺産分割協議とは?
遺産分割協議とは、相続人全員が集まり、遺産をどのように分割するかを話し合う手続きです。遺言書がない場合や、遺言書に記載のない財産について、相続人が公平に分割する方法を決定します。相続人全員が同意することが必須で、合意が得られない場合は、家庭裁判所で調停や審判を行うこともあります。遺産分割協議は、相続手続きの中で最もデリケートなプロセスであり、慎重に進めることが重要です。
2)遺産分割協議の期限
遺産分割協議には法律上の期限はありませんが、相続税の申告期限である相続開始後10ヶ月以内に完了させるのが理想的です。この期限までに協議がまとまらない場合、税法上の特例が適用されず、余計な税負担が発生する可能性があります。また、相続財産の処分や分割が遅れると、相続人間でのトラブルを引き起こすリスクも高まります。
3)遺産分割協議をしないとどうなる?
遺産分割協議が行われず、相続財産が共有のまま残ると、相続人全員の同意がなければ財産を処分することができません。これは、不動産や金融資産の売却や移転がスムーズに進まない原因となり、相続人間での関係が悪化することもあります。また、長期間放置されると、次世代の相続人が加わり、さらに複雑化する可能性があります。そのため、できるだけ早期に協議を行うことが重要です。
2.事前の確認事項|遺産分割協議前に行うこと
遺産分割協議を円滑に進めるためには、事前の準備が欠かせません。相続手続きにおいて、確認すべき事項や適切な手続きを踏むことで、後のトラブルを回避できます。ここでは、遺産分割協議に臨む前に確認しておくべき重要なポイントを解説します。
1)遺言書がないか確認する
遺産分割協議を行う前に、まずは被相続人(故人)が遺言書を残していないかを確認する必要があります。遺言書がある場合、基本的にはその内容に従って遺産を分割します。遺言書の種類としては、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言などがあり、家庭裁判所での検認手続きが必要なケースもあります。遺言書が存在するかどうかで協議の進め方が変わるため、しっかり確認しましょう。
参考:【遺言の種類3選】自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のメリット・デメリットを行政書士が解説
2)法定相続人を確認する
遺産分割協議には、すべての法定相続人が参加する必要があります。法定相続人の確認が不十分だと、協議が無効になることがあるため、慎重に行いましょう。法定相続人とは、被相続人の配偶者や子供、孫、両親、兄弟姉妹などが該当しますが、相続順位や特定の状況(離婚や養子縁組など)によっても異なる場合があります。また、認知されていない子や隠れた相続人がいないかも注意が必要です。正確な戸籍調査を行い、全相続人を確認することが重要です。
参考:法務局「法定相続人 (範囲・順位・法定相続分・遺留分)」
3)遺産を確認する
遺産分割協議を行うには、相続財産の全体像を把握する必要があります。相続財産には、預貯金や不動産だけでなく、株式や有価証券、さらに車や宝石などの動産も含まれます。また、借金や税金の滞納など、マイナスの財産も確認しなければなりません。すべての財産をリストアップし、「財産目録」を作成することが、スムーズな協議のために不可欠です。特にマイナス財産がある場合は、相続方法にも影響を与えるため、正確な確認が重要です。
参考:国税庁「No.4155相続税の税率」
4)相続方法を決める
相続には、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの方法があります。単純承認は、プラス・マイナスすべての財産を無条件で相続する方法です。限定承認は、相続した財産の範囲内で負債を引き継ぐ方法で、相続人全員が同意する必要があります。
相続放棄は、全ての財産を相続しない選択です。この場合、相続権そのものを放棄するため、プラスの財産も受け取れなくなります。これらの方法を慎重に選択し、家庭裁判所への申立てが必要な場合は、法定期間内に手続きを行いましょう。
5)遺産分割協議を行う
遺産分割協議は、相続人全員の参加と合意が必要です。全員が納得する形で財産を分割するため、冷静に話し合いを進めることが重要です。
もし意見がまとまらない場合、家庭裁判所で調停や審判を行うことも可能です。調停では、第三者が介入し、相続人間の話し合いをサポートします。裁判所での解決は避けたいところですが、必要な場合は積極的に利用しましょう。
6)遺産分割協議書を作成し全員が記名押印する
遺産分割の内容が全相続人の合意に至ったら、その内容を文書にまとめた「遺産分割協議書」を作成します。この協議書には、財産の分割方法や受取人の詳細を明記し、全員が記名押印することが必要です。この文書は後々の証拠となり、遺産の名義変更や相続登記を行う際にも重要な役割を果たします。記名押印を怠ると協議が無効になることもあるため、注意が必要です。
7)遺産を分轄する
協議がまとまったら、次に遺産の分轄を行います。分轄とは、各相続人が実際に遺産を受け取ることを指し、不動産の場合は相続登記、預貯金の場合は名義変更を行います。
不動産の相続登記は義務化されており、これを怠ると罰則が科せられる可能性があります。名義変更が必要な財産はすべて速やかに手続きを行いましょう。これにより、相続手続きが正式に完了し、各相続人が法的に遺産を所有することになります。
3.遺産分割協議の5つの注意点
遺産分割協議は、相続人全員で遺産をどのように分割するかを話し合う重要な手続きです。しかし、この協議にはさまざまな注意点があり、適切に進めないとトラブルに発展する可能性もあります。ここでは、遺産分割協議における主な注意点を解説し、トラブル回避のポイントについてご紹介します。
1)遺言書で遺産分割の指定がある場合は不要
遺産分割協議は、遺言書が存在しない場合や、遺言書で指定されていない財産について行います。遺言書があり、その内容に遺産分割方法が詳細に指定されている場合は、相続人間で協議する必要はありません。特に公正証書遺言の場合は、内容が法的に確実なため、遺産分割協議を経ずに遺産を分割できます。
ただし、遺言書が無効とされる場合や、遺言書の内容に不服がある場合は、相続人全員の同意を得たうえで協議を行う必要が出てくることもあります。
2)マイナス財産は法定相続分通りに負担する
相続はプラスの財産だけでなく、借金や未納税金などのマイナス財産も含まれます。遺産分割協議では、これらマイナス財産も法定相続分に従って分担する必要があります。
もし負債を負いたくない場合は、相続放棄を選択できますが、放棄する場合は家庭裁判所への申請が必要であり、申請期限もあるため注意が必要です。また、相続放棄を行う場合、プラスの財産もすべて放棄することになるため、慎重な判断が求められます。
3)行方不明者・未成年者・寄与者・生前贈与などは複雑なので専門家に相談がおすすめ
相続人の中に行方不明者や未成年者が含まれる場合、遺産分割協議はさらに複雑になります。行方不明者がいる場合は、裁判所に失踪宣告の申立てを行い、代理人を立てる必要が生じることもあります。また、未成年者がいる場合、その親権者や後見人が代理で協議に参加しますが、利益相反が生じるケースもあるため、専門家のサポートが重要です。
さらに、生前に贈与を受けていた相続人や、寄与分がある場合も、協議が複雑化する要因となるため、弁護士や司法書士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
4)遺産分割協議のやり直しはトラブルのもとなので専門家に相談がおすすめ
一度成立した遺産分割協議をやり直すことは、相続人間でのトラブルの原因になりやすいため注意が必要です。特に、協議後に新たな財産が発見された場合や、協議内容に不満がある相続人がいる場合は、トラブルの可能性が高まります。
このような状況を避けるためには、最初の協議時点で慎重に進めることが重要です。もしやり直しが必要になった場合は、法律の専門家の助言を受けながら進めることで、トラブルを最小限に抑えることができます。
5)遺産分割協議がまとまらないときは調停・審判
遺産分割協議が相続人全員の合意に至らない場合、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることができます。調停では、第三者が間に入って話し合いを進めますが、それでも解決しない場合は裁判所が審判を下すことになります。
調停や審判に至る前に、相続人間で冷静に話し合うことが望ましいですが、どうしても合意に至らない場合は法的手続きを利用することが必要です。特に、調停は家庭裁判所で行われ、裁判に比べて手続きが簡便であるため、まずは調停を検討することをおすすめします。
4.複雑な相続手続きは専門家へ相談しましょう
相続手続きは、財産の種類や相続人の状況によって非常に複雑化することがあります。特に、行方不明者がいる場合や未成年者が相続人に含まれる場合、また、寄与分や生前贈与が絡むケースでは専門知識が不可欠です。
こうした状況で適切な対応をしないと、相続人間での争いが発生し、手続きが長期化するリスクもあります。スムーズに相続手続きを進めるためには、行政書士や司法書士、弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。専門家のサポートを得ることで、トラブルを未然に防ぎ、安心して手続きを進めることができます。