相続は、誰にとっても避けては通れないライフイベントです。特に相続人が複数いる場合は、遺産分割協議など、複雑な手続きが必要となり、相続人間でトラブルが発生することも少なくありません。
その中でも、不動産の相続登記は、特に重要な手続きの1つです。相続登記を適切に行わないと、不動産を売却できなかったり、融資を受けられなかったりするなど、後々大きな不利益を被る可能性があります。
そこで今回は、相続人が複数いる場合の相続登記について、手続きの流れと注意点を、行政書士の視点から詳しく解説します。遺産分割協議の進め方や必要書類、注意点などを把握することで、スムーズな相続登記を実現し、将来的なトラブルを未然に防ぎましょう。
参考:2024年4月に義務化された【相続登記】とは?手続きしないと罰則やご家族に迷惑がかかります!
1. 相続登記とは?
相続登記とは、亡くなった方(被相続人)名義の不動産を、相続人の名義に変更する手続きのことです。この手続きを行うことで、相続人は不動産を正式に自分のものとして所有できます。
相続登記は、所有権移転登記の一種です。不動産の所有者が変わる際には、必ず登記が必要となります。相続によって所有者が変わる場合も同様で、相続登記を行うことで、法務局に記録されている不動産の所有者情報を更新することになります。
2. 相続登記が必要な理由
2024年4月1日から相続登記は義務化されたので、法的にも必要となりました。また実状としても、相続登記をせずに放置しておくと、将来的に様々なトラブルに巻き込まれる可能性があります。
例えば、相続登記を行わずに放置しておくと、以下のような問題が発生する可能性があります。
・不動産を売却できない ・不動産を担保に融資を受けられない ・相続人がさらに亡くなった場合、相続関係が複雑化し手続きが困難になる ・第三者による権利主張のリスクがある ・相続税の申告が正しく行えず追徴課税の可能性がある |
これらの問題を避けるためにも、相続が発生したら早めに相続登記を行うことをおすすめします。
3. 相続人が複数いる場合の相続登記の流れ
相続人が複数いる場合、相続登記の手続きは、単独相続の場合に比べて複雑になります。基本的な流れは以下のとおりです。
1)相続人の確定
まずは誰が相続人になるのかを、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本などを収集し、相続人を確定します。法定相続人は、民法で定められた相続順位に従って決定されます。
2)遺産分割協議
相続人が複数いる場合は、遺産をどのように分割するかを話し合い、 遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、誰がどの財産を取得するかを明確に記載する必要があります。不動産を共有にする場合や、特定の相続人が単独で相続する場合など、具体的な分割方法を決定し、全員の合意を得ることが重要です。
3)必要書類の収集
相続登記に必要な書類を収集します。必要な書類は、以下のとおりです。
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 ・相続人全員の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書 ・遺産分割協議書 ・固定資産税評価証明書 ・登記申請書 ・その他ケースバイケース |
4)登記申請(相続登記)
必要書類がそろったら、法務局に登記申請を行います。申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局です。相続人全員で申請するのが原則ですが、代表者を一人決めて、委任状を提出することで、代表者のみで申請することも可能です。
4. 相続人が複数いる場合の相続登記の注意点
相続人が複数いる場合、相続登記の手続きは、単独相続の場合に比べて複雑になり、予期せぬ問題が発生することもあります。スムーズに相続登記を進めるために、以下の5つの注意点を押さえておきましょう。
1)遺産分割協議の難航
相続人が複数いる場合、遺産分割協議が難航することが少なくありません。これは、相続人それぞれに、相続に対する考え方が異なるためです。例えば、不動産を売却して現金で分割したい相続人と、不動産をそのまま保有したい相続人がいる場合、意見が対立することが考えられます。また相続財産の評価額や、過去の贈与の有無などについても、相続人間で認識が異なる場合は、協議が難航する可能性があります。
遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。調停では、家庭裁判所の調停委員が、相続人間の話し合いを仲介し、合意形成を目指します。
2)相続人の所在不明
相続人の所在が不明な場合、相続登記の手続きを進めることができません。相続登記は、相続人全員の同意と協力が必要となるからです。所在不明の相続人がいる場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる必要があります。不在者財産管理人は、所在不明の相続人に代わって、遺産の管理や相続登記の手続きを行います。
3)相続放棄
相続人が、相続によって負債を背負うことを避けるために、相続を放棄する場合があります。相続放棄は、家庭裁判所に相続放棄の申述をすることで行うことができます。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものとみなされ、相続財産を受け取る権利も、負債を返済する義務もなくなります。ただし、相続放棄は、相続開始を知ってから3ヶ月以内に行わなければなりませんので、注意が必要です。
4)未成年の相続人がいる場合
相続人に未成年者がいる場合は、法定代理人(親権者など)が代理人として手続きを行います。未成年者は、法律行為を行う能力が制限されているため、単独で相続登記を行うことができません。法定代理人は、未成年者の利益を最優先に考えて、相続登記の手続きを進める必要があります。
ただし、相続で親権者と子が相続人の場合は、利益相反行為になるため、親権者が代理人として遺産分割協議の同意は出来ません。したがいまして、このような場合は、家庭裁判所に申請して「特別代理人」を立てる必要があります。
5)登録免許税
相続登記には、登録免許税という税金がかかります。登録免許税は、不動産の評価額に一定の税率を乗じて計算されます。税率は、相続登記の場合、固定資産税評価額の0.4%です。例えば、評価額が3,000万円の不動産を相続する場合、登録免許税は12万円となります。
これらの注意点を理解した上で、相続登記の手続きを進めるようにしましょう。
5. 相続登記を司法書士に依頼するメリット
相続登記の手続きは、複雑で時間のかかる作業です。専門知識も必要となるため、司法書士に依頼することをおすすめします。
司法書士に依頼するメリットは、以下のとおりです。
・専門知識を持った司法書士が、手続きをスムーズに進めてくれる ・必要書類の収集や作成を代行してくれる ・法務局への申請を代行してくれる ・遺産分割協議のサポートをしてくれる ・他の専門家とのネットワークがあれば、すべて丸ごと任せられる |
6. 相続人が複数いる場合の相続登記まとめ
相続人が複数いる場合の相続登記は、単独相続の場合に比べて、手続きが複雑化し、様々な課題に直面することがあります。遺産分割協議をスムーズに進めること、必要書類を漏れなく準備すること、そして、相続人全員が協力して手続きを進めることが重要です。
特に、遺産分割協議では、相続人それぞれの希望や事情を考慮しながら、全員が納得できる合意形成を目指さなければなりません。また、相続人に未成年者や所在不明者がいる場合は、特別代理人や不在者財産管理人の選任など、追加の手続きが必要となることもあります。
相続登記は、相続人の権利を守るために重要な手続きです。手続きの煩雑さや専門知識の必要性から、多くの人が専門家に依頼しています。司法書士は、相続に関する専門家として、遺産分割協議のサポートから必要書類の収集、法務局への申請まで、相続登記の全般をサポートします。
相続登記でお困りの際は、一人で悩まず、お気軽に司法書士にご相談ください。
参考:不動産の名義変更はいつまでに?相続登記の期限と注意点などを専門家が解説します